前回「ダンテ主新作の2」の続き……
回想を挟みつつ、マレット島跡地の深部に向かうダンテ。
あそこの深部なんて魔界しか無いだろ、って感じですが、そんな具合です。
連載一回目がクリスマス
だったので、この時期に仕上げたい所。
多分ラスト付近、ちゃんとダンテ主っぽい密接度になります。
まあ……ハッピーとは言い難い最後の予定ですが、それでも良ければお付き合いください。
回想を挟みつつ、マレット島跡地の深部に向かうダンテ。
あそこの深部なんて魔界しか無いだろ、って感じですが、そんな具合です。
連載一回目がクリスマス

多分ラスト付近、ちゃんとダンテ主っぽい密接度になります。
まあ……ハッピーとは言い難い最後の予定ですが、それでも良ければお付き合いください。
「白い空、黒く歪んだ海、荒涼とした大地……ボルテクスだとか今は云ってるが、魔界への道を着々と歩んでるって感じだな」
アマラ深界から久々に抜け出し、乾いた空気の中でめいっぱい伸びをした。
隣のヤシロは相変わらず、つまらなさそうに表情を殺している。
「おい、そんなツラしてんなよ、こっちの気が滅入るだろ」
頬を抓ってやると、黒い部分はほんの少しだけ違う硬さを持っていた。
グローブ越しでも分かる違和感、表面に薄くクロームメッキを施した様な。
それでも流石に、ドラゴンの鱗って程じゃない。“ 頬を強張らせた人間 ”って程度だ。
「なんだよ、いつまでも触ってんな」
「はは、まだまだアマラに居たかったのか?」
パッと手を払われて、宙ぶらりんになった腕をそのまま己の背面に回す。
リベリオンの柄に指先を遊ばせつつ、ヤシロの言葉を待った。
「折角あの赤から解放されたと思ったのに、上に出てきてもダンテのそのコートだ」
「悪いかよ、俺には似合ってるだろ? 薔薇より艶やかで、ワインより潤みのあるレザーだ」
「そういう事、自分から云えるんだ……」
つまらなさそうな顔は呆れ顔に変わっていて、それでも俺のコートを改めてじっと見つめてくる。
そして金色の眼をチラつかせながら周囲を確認して、ぼそりと呟いたんだ。
「でも実際、似合ってる」
「考え事?」
トリッシュの声が、冷水みたく俺の脳内を洗っていった。
「ああ……」
「そう、考え無しに行動する貴方がアンニュイなのは珍しいわ。でもね、せめて非戦闘時にしてくれないかしら」
「人生は常にバトルだろ?」
トリッシュの弾丸でトドメを刺された獲物から、俺の得物を抜く。
そうだ、俺の一撃では仕留められなかった。単独行動なら、反撃の一発でも喰らっていた所だろう。
「何を考えてた?」
「お喋りで発散されるような内容じゃねえぞ、つつき回されると余計に気が散る」
「バージルの事、それとも置いてきたヒトシュラの事?」
「デリカシー無えよな、お前」
トリッシュは口の端をクイと吊り上げてから、モデル歩きの様にして先陣をきった。
流石に見知った空間だからか、その足取りに迷いは見えない。
「この島から脱出した時は木っ端微塵に見えたけど、案外足場が残ってるものね」
「悪魔も残ってる、しつこい汚れみたいにな」
「フフッ」
ただ、うろつく悪魔共が……以前と違う。フォルトゥナで幾度かやりあった、天使っぽい連中に似ている。
《帰天》したは良いが、行き場を失い此処に屯していた……そんな所だろうか。
「でも貴方、割と真剣な問題でしょう。バージルはともかく、ヒトシュラは貴方無しでこれからどうするの。まさかネロの所にずっと住まわせるつもり?」
「ハハ、いくらなんでも……俺だってそんな事は避けるぜ。ネロの坊やに魔界まで追いかけられて、とっちめられそうだからな」
「そういえば、あの子の飼い主がお邪魔してたわよね。彼が勝手に連れ帰ってくれる算段?」
「さあな、ヤシロが拒まなきゃそうなるだろ」
「投げやりね、引き留めたくせに」
「俺は寝床を提供してた……そんだけさ」
アマラ転輪鼓の影で、いつも縮こまって寝ていたアイツ。
ショッピングモールの近い部屋であれば、かつて商品だった衣料品を持ち出して、それ等に包まって寝ていた。
坑道や深界の途中には、そんなモノ見当たらない。
いっそ毛布代わりに、毛足の長い悪魔をスカウトしたらどうだ? と薦めてみたが……結局それをしなかった。
プライドが許さなかったんだろう。もしかしたら俺さえ見ていなけりゃ、モフモフとした悪魔をクッションに寝ていたかもしれない。
天輪鼓の部屋はいつも空気が冷えている。俺が直接寒いと感じるワケじゃないが、人間の部分でそう感じ取っていた。
「おい、風邪ひきそうだなお前」
回復の泉で戦いの汚れをさっぱりと落としたヤシロを、靴先でこづく。
これからまさに入眠する所だったのか、壁に背を預けていたアイツは、不機嫌を隠しもしない声音で。
「ひけない事、知ってるくせに」
と云い放ち、瞼を下ろした。
俺は傍に腰を下ろして、銃のエボニーとアイボリーのメンテを始める。
時折、パーツからチラリと視線をズラしてヤシロの方を見れば、アイツは薄目で俺の手先を眺めていて……
微かに響く金属音に、どこかうっとりとしている様だった。
無音よりは、何か音が有った方が眠れるのかもしれないな。時計の秒針や、遠くの梟の声、同室者の寝息、心音。
……ひとしきり作業を終え、伸びをして振り向けば。さっと目を瞑り、さも眠っていましたといった素振りのヤシロ。
俺の動体視力を舐めるなよ、バッチリこっちを眺めていただろうが。
鼻で笑いながらコートを脱いで、その寒そうな身体に被せてやる。
すると、弾かれたようにパチッと金色が光り、上体を起こして抗議してくるんだ。
「寒くないから要らない」
「俺だって寒くないぞ、でも半裸で寝てるお前を見てると寒いんだよなぁ」
「俺を視界に入れず寝れば良いだけでしょう」
「まあそうかもしれんが……それとも何だ、コートから加齢臭でもするか? ン?」
「や、そんな事は云ってない! その……」
ヤシロは何やら口ごもり、コートを突き返してくる手がゆっくり膝上に落ちた。
「……俺だって同じなんだ。ダンテのいつも着てる上着が無い、それだけでそっちこそ、寒そうに見えるから」
そう、互いに“見える”だけなんだ。ブフを喰らってる時の様な、そういったダメージの有る冷えは無い。
「じゃあ、俺が着ているべき、そう云うんだな?」
「ああ」
云われた通り、目の前で再び袖を通す。
コートを纏ったまま、ヤシロをぐい、と引きずり込んだ。
「ちょ、っと待て……」
「これならどっちも寒く見えねえから、イイだろ」
「子供じゃあるまいし、恥ずかしいだろ……こんな」
でも俺の腕から逃げないもんだから、そのまま壁に寄りかかる。
最初は強張っていたヤシロも、ウトウトするにつれて柔らかくなっていく。
コートの裾をその脚に引っ掛けてやると軽く身を捩って、やがて寝息が聞こえてきた。
互いに半魔、別に睡眠は必須じゃない。片方は起きていた方が堅実だろう、いくらこの空間が安全だってな。
でも、その時は俺も寝ちまった。あの穏やかな寝息につられた、多分。
ベッドだって、寝る対象が載ってる方が落ち着くだろう、そういうもんだ。
それからは何度か、俺が寝床になってやった。
アイツが回復しきらず一時的に逃げ込んだ時も、友を殺して沈む時も。
そういう時は包んでやっても震え続けるもんだから、軽く背中を撫でてやるんだ。
ガキの頃、俺が母親にしてもらったのと同じ様な手つきで。
すると、ゆっくりと深く息を吐いたヤシロが、仄かに光る。
黒を縁取るラインが、代わりに呼吸するかの様に。
輝く色に反して、温かに感じるんだ。コートの内に、思わず隠す様に包み込みたくなる。
「大丈夫だからな」とか、ガラにも無く気休めの言葉をかけてやって。
何がどう大丈夫なのか俺自身にも分からないまま、眠りに就く。
目覚めた時には、いつも整然と構えるアイツが……俺を安堵させたから。
なんとかなる、そんな気持ちでいたかった。
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