おおよそ書けてきました。
祐子先生が戻ってきた所から始まります。
そして成り行きから人修羅は、また面倒事に巻き込まれ…というよりは、首を突っ込んでしまいます。
前半で漕ぎ付けるか分かりませんが、閣下にちょっかいを出される展開予定。ワクワクする様なちょっかいではなく、仄めかしです。どちらかというと、その後が不安になる様な空気の…人修羅へというより、ライドウへの嫌がらせに近い。ライドウがキレるシーンが好きな方は、乞うご期待(不穏な宣伝)
今回のテーマは「えんのう」です。漢字表記にするとネタバレなので、ひらがなで(ただし、ダブルミーニング)
添削出来ておりませんが、書けているキリの良いところまで↓
祐子先生が戻ってきた所から始まります。
そして成り行きから人修羅は、また面倒事に巻き込まれ…というよりは、首を突っ込んでしまいます。
前半で漕ぎ付けるか分かりませんが、閣下にちょっかいを出される展開予定。ワクワクする様なちょっかいではなく、仄めかしです。どちらかというと、その後が不安になる様な空気の…人修羅へというより、ライドウへの嫌がらせに近い。ライドウがキレるシーンが好きな方は、乞うご期待(不穏な宣伝)
今回のテーマは「えんのう」です。漢字表記にするとネタバレなので、ひらがなで(ただし、ダブルミーニング)
添削出来ておりませんが、書けているキリの良いところまで↓
長編2-19(仮題)
蟲の知らせというやつか。教室の扉の前まで来た途端、胸の内が軋んだ。
中に巣食うマガタマが、俺に何かを感知させ足止めする。
「先生、もう大丈夫なの」
「いつまで居られるの、また入院とかしないよね、卒業までうちの担任でしょ?」
ああ……いよいよ戻ってきやがったか、あの女教師。
まじまじと面を拝むのは、どれくらいぶりだろう。
病院の屋上で見た時も、病室で見た時も、様子は変わらなかった。
無感情では無いが、しかし取り乱す事も無いその姿勢……穿って云えば、無神経。
ボルテクスで氷川に捨てられていた際も、正直ざまをみろと感じた。
独りで出来ると公言しながら、俺を頼って来た事を忘れてやるものか。
「……功刀?」
声に振り向くと、男子生徒が怪訝そうに見下ろしてきていた。
同じクラスの……苗字はなんだったか。
「立ちくらみ?」
「いや……」
「おう、だったらさっさと入れ」
室内履きの踵を爪先で軽く小突かれ、俺は仕方なく扉をスライドさせた。
「おはよう」
笑顔の高尾祐子が、真っ先に挨拶を仕掛けてくる。
無視しても面倒が発生すると思い、俺は一瞬目を合わせ「おはようございます」と返した。
俺の後に続けて入室した男子生徒は、おおっと歓声を上げて教師に歩み寄っていた。
「いつ退院した?」
「こないだよ」
「今日から来てんの? オレ昨日休んだから分からんくて」
「あら、風邪でもひいてたの? もう平気?」
「いや~昨晩まで立ちくらみ酷くってさ」
他愛ない会話も、良い囮になってくれて助かる。
モラリストなあの教師は、生徒をないがしろになど出来ない筈だ。
着席し、俺は自然と新田の席を見た。
仁王立ちの橘に制され、椅子から尻を離せない様子の新田が垣間見える。
散々あの教師に付き纏った男子を、見かねたクラス委員が自重させた……そんな所か。
それでも橘の隙間から教卓を窺う新田。一部始終を見た俺は最早、呆れた溜息しか出なかった。
「ねえ、真面目に選んでる?」
ずっと鉢植えを見ている俺に、ぴしゃりと冷たい声が刺さる。
視界の端に、橘の髪が揺れた。肌から眼から……色素が薄いのか、茶髪に見えるそれ。
当人の利発さが不良要素を排除するのだろう、校内で彼女が“染めている”と疑う人間は居なかった。
「しかも土有りのプランターって貴方……病室じゃないとはいえ、まだ根っこモノは避けるべきでしょ」
「……まだ安静にしてた方が良かったんじゃないのか」
「ふうん、そんな事云う訳? 新田君の盲目っぷりも失笑ものだけれど、貴方のその態度も褒められたものじゃない」
「じゃあどうして俺を同行者に選んだんだ」
逆に詰れば、むっと唇を引き結ぶ橘。
普段、打てば数倍の音響になって返る金属の様な彼女が、最近どこか大人しい。
密度の高い木材の様な、響けど鈍い反応だ。
「それは……貴方なら、連れ慣れてるからよ」
「真面目に贈り物選ぶなら、新田を選ぶべきだったと思うけど」
「……そうね。全く、祐子先生の事となると本当に冷たいんだから」
快気祝いとかなんとかで、唐突にクラスの連中から資金を巻き上げた挙句の生花店だ。
一人百円程度で済むので、全員あっさりと財布を開いていた。
預ける先が橘だから、という安心感も手伝っているのだろう。
そういった意味では、俺も信用はしている。
「ま、とりあえずさくっと選ばなきゃね。いくら近くとはいえ、昼休みの間に戻らなきゃならないし」
学校から徒歩十分の距離、逆算すればまだ余裕が有る。
出来れば、ぎりぎりまで吟味してくれ。
俺は少しでも、あの教師が居る空間から離れていたい。だからこのお使いにも乗ったんだ。
「祐子先生どんなのが好きかな」
「……好みが分かれそうなのは避けたら」
「例えば」
「えっ……香りが独特なものとか、色合いが派手だったり……」
「霞草オンリーにでもする?」
「そっちこそ、真面目に考えてるのか?」
「あら、貴方に合わせているだけだけど?」
やはりおかしい、先日ドミニオンを追い払ってからずっとだ。
「下らない」と一蹴するタイプだった筈なのに、どうして確認するかの様な態度ばかり取る?
俺に合わせるだなんて、気色の悪い……
「でも霞草ってのも、悪く無いわね。景気付けなのだし、個人的にはもっと華やかなタイプを贈りたいけれど」
「方針が決まったなら、店の外で待ってても良いか」
「アレンジメントを買うんだから一瞬よ」
「それなら尚更だ」
噎せ返る花の匂いから逃れる様に、重い扉を開けて外に出る。
少しだけ曇ったショウウインドウに、緑の呼吸を認識した。
透け見える店内、ぼんやりした彩の中……橘千晶のセーラーだけが重い色を落とす。
こういう絵を描く画家が居た気がする、名前なんか憶えていない。
「男の子は、買い物に付き合うのが一様にして苦手なのかしらね?」
鮮明に聴こえた声を振り向く、橘はまだ店から出てきていない。
視線の先にはあろうことか、俺が本日散々回避してきた教師が居る。
室内履きでもない、黒革のショートブーツで。腕組みしつつすらりと立つ姿こそ、久しかった。
「良いんですか、学校出てきて」
「橘さんが居るって聞いたから妙な不安は有りませんでしたけど、生徒のみで学校の敷地から出させるのは少し怖いわ」
「学年主任に一応許可貰ったそうですけど」
「そうね、主任から此処だと聞いたから……貴方達が誠実な生徒で良かった、こうしてちゃんと居た」
「他に何処へ行くって云うんです」
「男女でフけちゃう生徒も、偶に居るのよ? 制服を着ていれば、平日の街中でお察しだと思うけど」
「俺と橘さんはそういう関係じゃありませんし、こうして教師と立ち話するくらいなら一人で先に戻りたい」
棘を隠さずに物申せば……軽い静寂が訪れた。
硝子に近い薔薇達が、ひっそりと艶めいた様に見える。
あの花の構造を思えば、人を傷付けても許される錯覚を抱く。
「矢代君、メールは見てくれた?」
脳裏に文面が甦った瞬間、弾かれた様に俺は走り出した。
高尾の声と、微かに橘の声が背後から聴こえる……駄目だ、まだ離れなくては。
幾つかの脇道に逸れ、その道のまた脇へと入る。
知らない路地……大通りに出れば迷う事も無いだろうが、今はとにかく学校に戻りたくない。
「出先で具合が悪くなったので、そのまま帰路に就いた」と事後報告すれば良いだろうか。
いや、鞄も財布も眼鏡も学校に置いてある、辛うじて携帯電話を持ち出しただけの丸腰だった。
どうしても一度は戻る必要が有る、定期も鞄の中か。
(何なんだよ、救世主って)
あの教師が、本当に只の教師だったのなら、薄気味悪いの一言で済んだ。
カルト宗教に傾倒しているとしても、説明がつく。
彼女はどちらにも該当しない、後者は少し違うと思う。
憶えている限りでは、氷川と手を組んでいただけで……ガイア教徒という風では無かった。
創世の為に利用された、一時的な巫女に過ぎない。
(あの教師、俺に個人的な因果を感じているのか)
其処が恐ろしく、おぞましい。ボルテクスで彼女だけが孤立した事も、理解がいった。
他の連中は何かしら結託したり、所属したり。あるいは自ら打ち立て、同志を募っていた。
しかし高尾祐子は異質だった……なにより《人修羅》というフレーズを、殆ど発していない。
まだ普通の人間だった俺に、真っ先に干渉してきたのだから。
やはり、どう考えてもおかしい。
「はあっ……」
人目につかぬ細い路地だからと、端にへたり込んだ。
湿った臭い……緑の吐き出す空気とは違う、息苦しい都会の臭い。
他で暮らした事も無いのに、この東京を酷く煩雑に感じる。
以前も人混みは嫌いだったが、此処まで鋭敏では無かった。
(誰も居ない東京を、知ってしまったからだ――)
懐かしいだとか、思いたくも無い。
トウキョウと云う名の一括りでは有ったが、あの世界の大半は砂漠と化していた。
重ねてしまうな、これらは似て非なるモノ。受胎後の東京なんて、違う次元だ……
『アノ人間……』
『う、うめぇ!』
『マダ食ッテナイダロ』
『こいつぁとろけるMAGのニオイ!』
『オレ様達ヨリモ鼻ガ良イッテ、オマエナァ……』
どこか距離感の無い会話が耳に入り、察知されぬ様にそっと頸を上げた。
目の前の壁面に茂る苔、それを視線で這い上がる。
二階程の高さに有る、あれはベランダだろうか……フェンスにぶら下がる猿と、網越しに犬が視えた。
項をびりりと痺らせつつ、目を凝らせば連中の姿がくっきりと色付く。
違いない、どちらも悪魔。猿の方は……オベリスクに居た奴、桃色の体毛に金管がケバい。
犬の方は二匹居るのかと思ったが、首が二つ有るだけだった。
オルトロス……確か、火が効かない。
この世界の悪魔がボルテクスと同一の性質なら、間違いなく面倒な相手。
獣のくせに火が平気とか、理に反しているじゃないか。
俺は徐に立ち上がり、素知らぬ顔で路を抜けようとした。
『アッ、逃ゲルゾ』
『挟み打ちされるとも知らずに、キッキッキ』
『ソンナ作戦、聞イテナイッテ……』
ガシャンとフェンスの震える音がして、向こうに立ち塞がる猿の影が顕わになった。
背後からも着地の気配、犬の微かな唸りが大気を微振動させた。
この路地と合流する大通りは、営業回りかはたまた休憩中のサラリーマンが行き交っている。
そんな日常的なシーンが、悪魔の背景で流れている、まさに不協和音。
頭が痛い、酷く苛々した。
(他にもいっぱい居るじゃないかよ、人間なんて――)
ああ……違う……この脳の軋みは、光景の所為だけでは無い。
路地にはぐれていたからといって、俺だけが狙われる。その事実に納得出来なかった。
野良悪魔共に、嗾けてやりたい。
「今すぐ大通りに躍り出て、好きなだけMAGを喰らえば良いじゃないか」と。
そんな妄想を一瞬で想っていた……
無差別行為を許した自身に眩暈がし、この思考を誰にも知られたく無いと背筋が伸びる。
(相手してやるもんか)
確かに、現状では挟み打ちに遭っている。
しかし悪魔達から迫って来ないのは、多分俺を軽んじているからだ。
“MAGがそこそこ美味い只の人間”程度にしか思っていない、そうに決まっている。
軽く深呼吸し、壁を向いたまま左右を確認した。
この路地を覗きに立ち止まる者も居ないし、勝手口らしき扉も開く気配は無い。
俺は地を蹴り跳び上がると、窓のサッシへと靴先を引っ掻けた。
それを蹴り離す様にして反対へと跳び、同じく僅かな突起を踏む。
先刻まで悪魔達が屯していたベランダへと転がり込み、今度は連中を見下ろした。
ぽかんと此方を見上げてくる犬と猿に、俺は一瞥くれてから身を退く。
この建造物が何かは分からないが、とりあえず中に入れた方が助かる。
洒落たテラス、という風情は無い。コンテナが無造作に高々と積まれ、いかにも消防法違反といった風情なら有った。
灰色の扉に耳を近付け、神経を澄ませる……すぐ近くに気配は無い。
雨風に晒されて退色したドアノブを掴み、捻ったが空回りする。
ガチャガチャとノブを鳴らしている内に、フェンスのギシつく音が背後から迫る。
『おいっ、お前! 悪魔のクセに人間の振りしてんのかっ』
追いついてきたのはピンクの猿だ。片手の剣が邪魔をしているものの、よじ登る事は難でも無いらしい。
手足と指の本数が同じなだけはある、こういう時に人型の悪魔を恨みたくなる。
『おぉん? 無視するキかーっ!』
面と向かった俺に対し、突っ込んでくるかと思えば剣を投げつけてきた。
咄嗟に体軸を反らせば、スコンと小気味の良い音が響く。
背後を横目に見る、扉と壁の溝に丁度突き立った剣が微振動していた。
『避けやがってっ、ムキーッ!』
猿が威嚇の声を上げ、跳ねる様な足取りで接近してくる。
俺は刺さったままの剣を抜き取り、反射的に投げつけた。
金冠が割れ、額に銀色の剣を携えた猿がよろりと踊る。
弾ける血飛沫はコンクリ床を雨の様に濡らすだけで、大した赤味も無かった。
「はっ……はっ……」
投げつけた姿勢のまま硬直していた、己の荒い呼吸でようやく我に返る。
ふと手を見れば黒い斑紋が浮かんでおり、思わず息を呑んでうずくまる。
大丈夫だ……目の前の悪魔は戦闘不能に陥った……集中して擬態しろ……
先刻は高い位置から辿り着いていたのだろうか、オルトロスは下に留まるまま二重で吠えていた。
(他の足場から此処に来るとしても、まだかかる筈、焦るな)
こういう時に、あの呪いのピアスが有れば……等と考えてしまう。
頭から消しておきたい存在……“葛葉ライドウ”の与えてきた、あの装身具。
最早お守りの様な感覚だ、ミス出来ない時に有って欲しいと思う。
あんな物に頼らずとも、せめて姿は人間でありたいのに……
そうだ、まだルシファーから返して貰っていないじゃないか。
何と云えば此方に戻してくれるんだ? あんな呪いのアイテムの為に、頭を下げたくは無い。
「……あっ」
ひとまず黒が抜けた手でノブを掴めば、今度はあっさりと回った。
というよりも、引っ掛かりすら感じない。
そっと開けば、扉の側面がおかしい。どうやら先刻突き立った剣は、錠を分断していたらしい。
隙間から内部を覗く……薄暗い廊下に人影は無い。
いっそ何かの店舗なら、客を装い中を通過出来たというのに。都合の悪い事に、何かの事務所らしい。
己の肩越しに、ちらりと背後を見る。まだ微かに痙攣している猿が、血溜まりにそういうオブジェの様に在った。
意地を張って相手をしまいと逃げてきたが、結局一体潰してしまったのだ。
諦めて引き返し、オルトロスも始末してしまおうか?
ただし、路地で戦うのは危険だ……肉体的生死では無く、社会的な死活問題。
一般人にバレずしてやり合う為には、路地より更に人目につかない所が良い。
それこそ閉鎖空間、密室の様な所が――……
「いやぁっ! やめて!」
隙間風の様に、薄く開いた扉を揺らした。悪魔の声ではなく、人間女性の肉声だ。
俺は反射的に扉を閉め、身構えた。暫くしても廊下に人の気配は無かった為、再び開く。
通路に連なる部屋の何処かから、断続的に怒号が聴こえる。
(俺には関係無い……)
ゴキブリが出たって、お気に入りの食器が割れたって、悲鳴する人は居る。
一大事かどうかも判らない、しかも此処で俺が押し入れば不法侵入で更に悲鳴されるだろ。
完全な悪魔なら、人間から姿を隠せたのだろうか?
ふと脳裏を過ぎる……召喚が出来ないのなら、身近な悪魔が一匹居る。
俺は転がったままの猿に歩み寄り、軽く靴先で尻を蹴った。
反撃では無いものの眼をひん剥いたので、此方も即座に一歩後退する。
「まだ生きてます? お使いに行って欲しいんですけど」
『…………ゴポッ』
「動けるだけのマガツヒ……じゃないか、マグネタイトなら差し上げますから、お願い出来ますね」
内心「どうして喧嘩を売ってきた悪魔なんかに」と思いつつ、俺は猿の額に突き立ったままの剣に触れる。
柄を握り締め、気を集中させ力を流す。吸われる事なら多かったが、こうして自ら流す事は少ない。
何時の間に、意識せずとも出来る様になってしまったのか……
そんな複雑な気持ちが見え隠れする頃には、猿も血の気を取り戻していた。
しかし朦朧とするらしく、フラフラと危うい足取りだ。
俺は余計な事を考えない内に、鬣から突き出た尖り耳に命じる。
「人間にバレない様に、奥の部屋の様子を探ってきて下さい」
『様子……ヨウス……揚子江が見えるゥ……』
その視線が未だに彷徨っているので、突き立つ剣の柄頭をぐぐっと押してやる。
わっと眼を見開いた猿が、桃色の毛を逆立て悲鳴を上げた。
『ヒヒッ!』
「目、醒めましたか」
『何をシテこれば良いんだ』
「暴力沙汰が起こっていないか、確認だけしてきて下さい」
『たった今! ココで発生してるっしょ!』
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