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湿血帯不快指数

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アカラナの端(修羅ライSS)
ちょろぞ氏の一枚絵より展開。

『ボルテクスで別れてから世界を壊しまくってライドウの帝都(アカラナ)まで辿り着くけど壊しすぎて何がしたかったか判らなくなってる人修羅と、ボルテクスに行く前の面識のないライドウ』

という前提です。

人修羅×ライドウですが、キス程度です。というか何気に修羅ライ単品って初めて書きましたね。
人修羅が立場的にマウント取っているので、このCP表記で間違いないかと。
人修羅とライドウは、ちょろぞ氏宅の二名をイメージして書いてあります。
※記事に直アクセスでない場合は、右下の「つづき」から読めます。

 アカラナの端




 それは、人のカタチをした悪魔だった。
「やーっと見付けたァ」
 黒い斑紋が左右対称に刻まれた体躯は、ほぼ同年の青少年の様に見えた。
此方の召喚した仲魔はとうに破れ「存在が消失する事だけは敵わん」と、二体とも管に帰還済み。
まだ余力のある仲魔を喚ぼうとしたが、管にかけた指を上から包む指が見えた。
そのまま管ごと、ベキベキと折られて悶絶した。辛うじて悲鳴は飲み込む。
 銃を取ろうとホルスターに手を伸ばしたが、指は空振りする。
勘付き振り向けば、僕の銃を片手にした笑顔の悪魔が、その銃身で帽子をトンと叩いてきた……



「すげえ強い人間がこの辺ウロついてるって聞いてたのにさ、これで終わり?」
 弁解の余地も無い、僕は負けたのだ。
此方も噂だけは耳にしていた、なんとなしに世界を渡り歩く混沌の悪魔の話。
ただ、こんなにも人間の様でいて、それでいて人間離れしているとは想像もしなかった。
「なあ、アンタの世界って、どっち? ココ案内板とかも無いし、その辺の連中に訊いても答えがバラバラでさ」
『教えてはならんぞ、ライドウ……葛葉の矜持を抱いて死ねるなら、本望であろう』
「この猫、アンタに死ねって云ってるけどいいの?」
 この様な末路は想定の範囲内だ、とうに覚悟は出来ていた。
未練など有ったろうか、せいぜい目の前の御目付役の事くらいか。
帝都で世話になった数々の人達が、まるで走馬灯の様に駆け巡った。
ただ、未練とは違った。
皆、それぞれの道が有る、僕が居なければならない事も無いだろう。
振り返れば、やはりゴウトの事だけが少し心残りではあった。
「なあ、アンタ、オレの仲魔にならねえ?」



 突如投げられた言葉に、己がデビルサマナーだという事を一寸忘却していた。
不可思議な提案をされ、思案の体をひとまず取る。
相手が痺れを切らさぬうちにと、頷いた。
『おい、ライドウ』
「ゴウト童子、貴方は我々が去った後に、御帰還下さい」
 話し合いならば、視線は同じ高さが良い。痛む身体に鞭打って、ようやく立った。
悪魔は僕の態度に満足したのか、にんまり微笑むと、次にはゴウトに顎で指図した。
「追わねえから、さっさと行きな。折角コイツが自分の身と引き換えに、アンタ等の世界を守ったんだから」
『……永劫の約束事と思えぬ』
「人間だろ? このライドウって奴。コイツが死ぬ頃には、オレも気が変わるかもしれないな」
『くそっ』
 去り際の黒猫の眼が、僕に強く訴えかける。
それだけで、心残りもほぼ失せた。
僕は14代目として間違いなく、情を頂いていたのだと、そう確信出来たから。



「随分と冷静なのな」
「……童子を見逃してくれた事、感謝している」
「アンタ、オレの仲魔になったんだぞ? ちっとは不満そうにしないワケ?」
「傷が癒えるまでしばし時間を頂きたい、今直ぐ役には立てない」
 先程までの、舌の根に苦味の走る様な殺意は感じない。
人型の悪魔……その肌の斑紋さえ無かったら、人間そのもの。
「ま、オレも仲魔入れたのなんか、スゲェ久々だからさ……」
 そう呟いて、暫く海を眺める彼。
アカラナの端、何処までも続く様な水辺が有る。
空には時空の裂け目が目立ち、此処に有る筈も無い満月が冷たく輝いていた。
「ココも変な処だよな、壊す物も無いし」
「……君は、総てを破壊するつもりなのか」
「あ? 悪いかよ」
「自分が潰えるまでは、どうか猫の行く先……あの世界への手出しは、待って頂きたい」
 少しだけでも、時間稼ぎをしなくてはならない。
15代目が鍛わるまで持てば、御の字か。
「……せいぜいオレを愉しませろよ? その為にあちこち回ってんだからな」
「承知している」
「イイ返事、それじゃ御褒美やるよ」
 突き出された拳固に一瞬脇を硬くしたが、どうやら攻撃では無いらしい。
手の甲から指にまで奔る黒が鮮烈で。
静謐なこの空間には刺激が強く、また馴染んでいる風にも感じる。
「何か分かるか? 実はオレ、これで遊んだ事無いんだけどさ」
 開かれた掌には、麻雀牌が二つ……
僕の錯覚だろうか、酷く見覚えの在る麻雀牌だ。
いいや、そうそう意匠に差など無いだろう。そう思い、悪魔の主人を見つめ直す。
「萬子の一と九だ……これを何処で?」
「さあ? オレ、つい最近の事しか頭に残らなくなっちゃってさ……だから、いつからこんな事してるかも憶えてねえし、なんでこんなの持ってるかも謎。しかも麻雀って、この二個だけじゃ出来ないんだろ?」
 はらりと宙に放り、目にもつかぬ速さでそれ等を掴み取る彼。
そろりと伸ばした指と指の隙間に、綺麗に挟まれた牌は裏面を向いている。
「そっちから見て右と左、どっちにする?」
「……条件を聞いていない」
「九なら魔石一個。一なら魔力譲渡……召喚でもなんでも、アンタの好きに使いな」
 流石に褒美として提示しただけあって、どちらも損は無い。
信用しきって良いものだろうかと思う反面、疑いたくない己が居る。
この悪魔の云う事を鵜呑みにすれば、帝都の平穏が叶うのではと。
「……左を」



 未だに脳髄が、かっかと熱を持てあましていた。
弱点を突いて吸うマグネタイトと違い、これこそが純粋な吸魔と知る。
砕けた筈の指も、既に感覚を取り戻しつつあった。
「ライドウっつったっけ、イケメンなのにキスでぼーっとしちゃう?」
「……いや、接吻自体は経験が有るのだが」
「出た、ハイハイ云わなくていいよ」
「甘露で、正直驚いた」
 僕の感想に、大笑いを始める悪魔。
人間の味覚など知った事では無いのだろう、それでも伝えておこうと思った。
媚ではなく、純粋に。
「そんな格好してるけどさ、昔の日本人?」
 扇子骨の様な階段を降りる途中で、問われる。
帝都へ案内する訳にはいかない、沈黙で返した。
「日本ってなんだっけな……どの星ってか、どの世界に在ったっけ」
「宇宙の中の星、地球に」
「だからさ、どの宇宙だっけっていう……そもそもオマエ、外から自分の世界とか見た事あんの?」
「先程の猫……ゴウト童子は衛星に――」
「ぷっは! イヤイヤもういいから」
 僕が語ろうと、他の何者が語ろうと、この悪魔にとっては絵空事に違いない。
永い時間が彼の記憶を摩耗させるのなら、見聞きする全てに憶えが無いという事だから。
「ホント、平然とそういう事云い出すんだもんなオマエ」
 可笑しそうに笑う彼、その声音に何故か親しみが籠る。
やはり僕の勘違いだろうか、錯覚だろうか。
「何故、僕を生かした?」
 身の程も弁えずに問い質す。
どうせ命が掌握されているのなら、それが知りたかった。
「……オレも昔、スゲェ強い人間に見逃してもらった気がするから」
 納得はせども、どこか釈然としなかった。
つまり僕は、誰かの形代だったのだ。
「本当にあった事かも……今となっちゃ分からねえけど」
 ふと立ち止まり、巨大な砂時計を一瞥した彼。
霜月晩の窓が如し硝子細工、その先が気になったのだろう。
触れぬ限りは鮮明に視えない、積もる砂山さえも静止している虚無が有るだけ。
「そういや、さっき名前訊いてきたよな……オレ、自分の個体名忘れてるんだけど、人修羅ってアダ名で呼ばれてたわ、そういえば」



 砂時計の中には、荒涼とした砂漠しか視えない。
人修羅は再びそれを見つめたが、やはり首を捻るのだった。


  -了-




 >麻雀牌は、別れたライドウから貰ったもの。
 >砂時計の先の砂漠は、ボルテクス界と化した東京。

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