真4Fの話、ワンドロ文章版で書きました。
ケツアルカトル戦後辺りのイメージ、暗いし流血描写有り、BAD気味。
ケツアルカトル戦後辺りのイメージ、暗いし流血描写有り、BAD気味。
願望
嵐が去ったみたいに、公園は静かだった。
噴水前で足が止まる、まだ焦げ臭い気がする。
縁に座って深呼吸する、肺が灼け付く様な気がする。
じっと眺めた地面に、孔雀の羽が影を落として嗤っている……様な気がする。
「また一人で勝手にウロついて」
いつもなら安堵する筈の声を聴いて、胸がぎゅうっと絞られる。
メットを真上からぱすんと叩かれ、鈍い振動に頭が揺れた。
「今お前、召喚出来ないだろ、何してるんだ」
「……ごめんね、ナナシ」
「自殺行為って分かってるか?」
「ねえ、怒らないで聴いててくれる?」
「分かってないよなソレ」
「分かってるからしたの、独りで……フラフラ」
見上げたら、何か云いたそうに唇を薄く開けていて。近年目立ってきた喉仏が、ゆっくり隆起した。
黙ってあたしを見下ろす眼が、じんわり蛍光色に潤んでいる。
泣いてるんじゃなくて、それが内側から滲んでる何かだって事は、最近理解した。
「オヤジが折角守ってくれたのに、って……云いたい、よね? でもあたし、きっとこの先もやらかすんだ……」
「どうせいつかアッチで逢える、急がなくていいだろ」
「考え無しに飛び出しちゃったり、パニックになるともう、ホントにダメ。きっとスマホ使えてもダメだった」
「自覚したなら、もういいじゃん」
「早く大人になって、オヤジに楽させてあげたいって……もう、叶わない。きっと成長するまでの間に、また皆に迷惑かける」
「慰めてくれって事? 今も頭ん中でダグザが煩いんだ、聴いてやるしか出来ないからな」
ナナシの腕を見た、液晶はOFFになってる。
それでも、今機能しているのはそのスマホだけで。それが憑いてる悪魔のせいだって事は、知れ渡っている。
散々フロリダでは云われちゃったけど、ダグザがナナシに憑かなかったら、どうなってたんだろう。
大勢死んでたよね、錦糸町も……今回以上、ううん全滅させられてたかも。
「ごめんね」
「だから何に謝ってるんだよ」
「あたしも死んだら、どこかの悪魔か神様が拾ってくれるかもしれないって、そんな事考えた」
付き飛ばされても良いように少し構えてたけど、ナナシはじっとしてた。
趣味の悪い冗談に聴こえてるのかな、立ち上がって今度は真正面から云ってみる。
「ナナシに謝ってるんだよ、きっと酷い事云ってるから、あたし」
「確かに生き返られるし、力も湧き上がってくる。でも他の連中も云ってただろ、俺が操り人形じゃないかって」
「でも、何度もあたしの事助けてくれた……よね? きっと、生前大事だった人の事は憶えていられるよ。その、家族とか」
「助けてるのは、ダグザにとって都合が良いからかもしれないぞ」
「でもナナシ、商会でオヤジとあんなにいつもみたく喋ってたし……」
「でもでも煩い……!」
メット紐を片方だけ掴まれて、ぐいっとバランスを崩された。
ずれた視線の先、光るナナシの手があたしの肩に食い込む。
「何の為にこないだ泣いてたんだ。俺が死んでた事にも気付かず居たって、大泣きしてただろ。アサヒが死んでたって後から知った場合、オヤジどうすると思う」
「…………なってねぇな、って云う」
「それで構わないなら、勝手に死んで何処かの悪魔にでも拾われろ!」
一息に云われて、ようやく頭の熱が下がってきた。
焦げ臭い気配も消えて、噴水池の浅い水面がキラキラと意識を刺す。
ああ、良かった……マナブとニッカリさん、オヤジの命を無駄にしないでやり過ごせた。
ナナシを傷付けると分かっていても、このどうしようもない気持ちをぶつけたかった。
きっと怒ると思ってたし、怒らなかったら……その時の方が、怖いから。
「うん……ありがとうナナシ。ちゃんと頑張って、それでもどーしてもダメだった時に、願う様にする」
「だからポックリ逝っとけよ、その方が気楽」
「もー、あたしはそれでも、今こうしてナナシと話せる事が嬉しいから……ダグザを責めきれないよ」
「……本当、アサヒ現金な」
いつも通り、すぐ仲直りできた。
血のぬかるみで転びそうになりつつも、通路を抜けて自室に戻る。
同室の子は気遣ってくれて、あたしは奥の部屋に一人きり。
確か二人殺されたから、近くのベッド二つもしばらく空っぽ。
そう思うと、またしょうもない感情がぶり返しそうになる。
ああ、ダメだダメだ。気持ちを切り替えて、足を引っ張らない様なあたしに成って、それからナナシ達に頭を改めて下げて……
ゴツ ガツ
物音に目が冴える、空調の異音でもないし。
隣の部屋……ナナシの部屋からだ。
ベッドから身を起こして、もそもそと上を羽織る。
サンダルに履き替えて通路に出ると、血腥さはちょっとだけ薄まっていた。
扉をノックしようとして、寸前で止まった。
どうしよう、もしかしたら余計な手出ししない方が良いのかも。
ナナシ一人とは限らないし、いやその場合もっと気になるけど。
でも……でも何か具合悪くして、動けないから物音立ててるとか、そんな事もあるかもしれない。
ダメだ、やっぱり気になるからノックしちゃった、もう開けるしかない。
「ナナシ、物音酷いけど――」
そっと開いた隙間から見えたのは、ナナシの脚。
ベッドじゃない所で、のたうち回っている。
血が……ラグマットを染めているけれど、鉄錆の臭いもない。
『おい小娘、お前が余計な事を云ったからだとは思わんか』
投げ出されたままの砕け散ったスマホがカタカタ揺れて、液晶がびしりと音を発した瞬間に直った。
液晶の映像でも、ホログラムでもない。姿を見せたダグザが、スマホの上空にふわふわ漂って嗤う。
『こいつは死ねない事に苦しんでいる、それだというのにお前は自ら傀儡となりたい等と、そう云ったのだぞ』
恐ろしい気がして、部屋に入ってから扉をしっかり閉めた。
他の人に見られたら、もうダメな気がした。
「ナナシ……ナナシ」
しゃがみこみ、その体を揺さぶってみる。
手首をぎゅっと握ったら、やっぱり脈は無いし冷たい。
『自殺出来れば楽なモノよ。この程度なら小一時間もすれば、俺がすっかり元通りにしてやる……フッ』
「こ、これ、ナナシが自分で?」
『お前を諭しておきながら自分はコレだ、全くけしからん、もっと強く在って欲しいものだな』
ダグザの声はそこで途絶えた、振り返るともう居ない。
スマホに……ナナシに戻っただけだろうけど。
「ごめんね、ごめん……ナナシ……」
ナナシのツナギに、あたしの落とす涙が吸い込まれる。
うつ伏せの体をぐぐっとひっくり返したら、開いたジッパーの隙間が真っ赤で吐きそうになった。
脳裏にヴェータラって悪魔がチラついて、更に込み上がってきたのを何とか抑える。
とりあえず棚からタオルを引っ張り出して、そっとナナシを拭った。
体をズタズタにするのに使ったと思われるナイフが、片手に握り締められていて。
どこか見覚えが有るそれを、ナナシの指を一本一本外して、手の内からそっと抜いた。
「……ううっ……あぁ……ッ」
ニッカリさんの形見のナイフだった。
あたしは衝動的に、それを――……
-了-
この意識も自我ではなく、操られて形成された思考なのではないか。という堂々巡りをしている所に、アサヒの言葉が刺さって思わず自殺。ただしダグザは死なせてくれない。最後にアサヒがナイフをどうしたのか、ご想像にお任せします。
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