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湿血帯不快指数

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蟲とケミカルライト(人修羅とライドウ)
人修羅とライドウ、カグツチ倒して先生EDの流れ。CP要素なし。
『女神転生版深夜の文字書き60分1本勝負』のテーマ「ハッピーエンド」から。
※これの人修羅とライドウは、サイトの彼等のイメージとまた別です。






蟲とケミカルライト



 散々にぶっ叩いた銀色の太陽は、幾何学模様の様にほどけて散った。
 頭の中に恨み言が暫く響いていたが、それもやがて消えた。
 不可思議な感触の残る拳をさすりつつ、仲魔の状態を確認する早急な回復が必要な奴は、とりあえず居ない。大事に至る前に、とっかえひっかえ入れ替えた甲斐があった。
『まさか、こんな所まで付き合うハメになるとは思わなかったわよ』
 膨れ面をしたピクシーが、冗談混じりに俺の耳を抓ってから、内に還って行った。空気の読めない悪魔の筈だが、どうやら目の前に佇む黒尽くめの男に気を遣ったらしい。
「恐らく悠長にしている暇は無い、先刻から酷く足元が不安定だ」
 台詞の割に慌てた様子も無く、装備品を定位置に納めながらライドウは云った。
「此処、崩れるのか?」
「いいや、周囲まで揺れている気配は無い。ボルテクス界が変容するより先に、僕が除外されるのだろう」
「なあこれで良かったと思うか? 大丈夫かな」
「良いも悪いも無いだろう、君が決める事だ」
 酷くあっさり返され釈然としないが、しかし反論や異議の余地も無かった。
 除外された先、しっかり自分の世界に戻れるのかと……ライドウの方が不安だろうに。この妙な冷静さは、踏んできた場数の差だろうか。
「カグツチに何を云われたかは知らぬが、君は君の望む世界を思い描いておくべきだよ。ぼんやりしていたら、ボルテクスの砂漠より更に簡素な世界が出来上がるかもしれない」
「それは避けたい」
「では別れの挨拶をさっさと済ませよう、そうしたら君は瞑想にでも入り給え」
 さっさと済ませて気持ちの整理がつくとは、羨ましい性格をしている。それとも、態度に出ないだけか?
 まあ、銃撃しまくってきたくせに「仲間にならないか」と持ち掛けて来た男だもんな。何でもかんでも、割り切れる人間なんだろう。
「短い間だが、世話になった」
 簡素な挨拶よりも何よりも、頭を軽く下げたライドウに目が釘付けになった。休憩中にも就寝時にも被っていた帽子を、いよいよ外したからだ。
 ただ、あまりに唐突だったせいで、しっかり確認出来なかった。奴が姿勢を戻した時には、既にいつものスタイルで。
「はあ、俺も……世話? まあ、世話になりました」
 妨害の方が多かったじゃないかよ、と思う反面、仲間になったライドウの活躍は目覚ましかった。俺に撃ち込んだ鉛弾の数よりも、助けてくれた回数の方が多い。そう考えれば、やはり感謝が妥当だ。
 そういえば数少ない人間の話し相手だったし、割と優柔不断な俺をバッサリ切り捨ててくれるのは有難かった。いや、俺自体をバッサリ斬り捨ててくれた事には、到底感謝出来ないが。
「あの、握手とかした方が良いのか?」
 姿がうつろい始めたライドウを見て、何故か俺が慌てて提案する。
 当人は落ち着いたもので、自らの掌を眺め始めた。それが解になっていないので、俺の手も彷徨い始めた。
 と、そこでふと思いつき、俺はライドウを制してから背を向けた。ぐぐ、と込み上げる蟲を掌に吐き出し、ズボンの裾で拭った。
「これ、貰ってくれよ」
 押しが弱くては駄目かと思い、ずい、とマサカドゥスを突きつけた。
 別段喜びも怒りもしないライドウが、光沢に胴を捩るソレを眺めた。
「……ちゃんと拭いたので」
「何故それを僕に」
「これ持ってると、何か怖いんだよ……強過ぎるっていうか、もう多分必要無いし。普通の人間が持ってると、悪い気に中てられそうだろ」
「ほう、僕なら中たっても構わぬと」
「いや違……そうじゃないけど! あんた、魔を祓う仕事してるんだろ、じゃあ大丈夫かと思って……頼む」
 下方から、黒猫が相当不審そうな眼で見上げている。確かに俺が渡そうとしている物は、禍魂(マガタマ)と云うくらいの代物だし。悪魔の力を結晶化した、それはそれは悪趣味なブツだ。
「貰い受けよう」
 ライドウの指がマサカドゥスに触れた際、静電気の様にパチリと何かが奔った。それでもはっしと掴んで、懐に仕舞い込んでくれた。正直その態度が、なんとなく嬉しかった。元の世界に戻れたら、安全な形で破棄してくれても構わない。
「では僕からもひとつ」
 さっきの蟲とは違った形だが、硬質だという類似点はあった。
 ソレを差し出すライドウに、黒猫が軽い叱咤をする。どうやらデビルサマナーへの、支給品のひとつらしい。それだからこそ、簡単にくれてやろうとするんじゃないのか?
 俺には使う予定も無いし、憤慨する黒猫の前で平気な顔して受け取るのもどうだろう。ただそれを云ってしまえば、物騒で俺にしか使えない(と思われる)マガタマを渡す行為と、そう大差無い。
「分かった、物々交換と思えば互いに気楽だよな」
 ライドウの差し出すソレを軽く摘まんだ瞬間、上からがっしりと手を握られた。
 一方的な握手に強張る俺に対し、抑揚も無く云った。
「君は充分人間だった、僕に幾度も敗けていたし……だから、そう不安がる事も無い。新しき世界でも、君は人間さ」
 何か一言余計な気もしたが、俺は手元を凝視したまま小さく「そうか」と、適当な相槌をした。
 手の圧迫が消えた頃には、ライドウも消えていた。




「おい、聞いてるのか?」
 勇の声で目覚めた、アラームが鳴らなかったのかどうか確認したくて、尻ポケットを探る。
 指先に冷たい感触……改めて身じろぐと、確かに妙な異物感があった。携帯の代わりに抜き出したソレは、密度の高い金属で出来たペンの様な物だった。
 ベッドに腰かけたまま、俺はそのペン先を軽く捻ってみる……輪になった部分に爪先を引っ掻け、更に引いてみた。
「おいおい先生のお見舞いに行くんだろ、サイリウムとか置いてけよ」
 溢れる蛍光色の輝きに、様々な記憶が蘇ってくる。
 勇の勘違いが可笑しくて、俺はベッドに転げて涙が出る程笑った。



-了-


 
びっくりするぐらい平和に仕上がった、5年に1本レベルの穏やかな内容。
バッドエンドとして、これの続きも書こうと思っていたのですが(ライドウ視点)
もう時間も無かったし、全体公開で出さない方が、世の為かな…

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