即興1時間、腰をテーマに何か書けないかと思い…
本当にちょっとしたやり取り。
タグにダンテ主とつけましたが、腐要素は無いと思います。
(pixivのキャプションより)
(pixivのキャプションより)
針小棒大
「腰が痛い」
そう云った俺を、怪訝な顔で睨んでくる少年。
「冗談は止めろみたいな表情すんなって、本当に痛いんだよ」
「……大怪我してるようには見えない」
「腰の、背中の方だ」
ホラよ、と無防備に背を晒す。
ここで不意打ちを喰らっても、反撃出来る余裕は有る。
「診ろってジェスチャー?」
「お前が医者じゃないのは知ってる、確認程度で良いんだ」
「少なくとも腰痛の類じゃないでしょう、そんな体じゃないし」
そんな体ときたもんだ、自分を棚に上げて……
いや、自虐も兼ねていたんだろうか。
「両腕上げて」
淡々とした少年の声に、肩で笑って腕組みだけする。
「“Hold up! 銃を床に捨て両手を壁につけ!” くらい云っても良いんだぜ?」
「腰痛いんじゃなかったのか」
「ま、その姿勢をとった所で、お前から先手を取る自信は有るけどな」
独り善がりに続ければ、さすがにイラっときたのか少年の手が出た。
俺を背後から羽交い絞めの様にして、この両手首をギリギリと掴んで。
普通の人間相手なら、既に肉は捩れて骨はボキボキだったろうな。
おーおー、いい加減譲ってやらないと少年の方が折れそうだ、そう思って多少腕を緩める。
すかさず黒いタトゥーの腕が、俺の腕の主導権を握り始めた。ただし身長が足りないのか、上へと捻るほど少年が不利になる。
俺は悪戯心を制御出来ず、ぐいっとホールドアップしてみた。
「うッ」
少年の足が地を離れた分、その重さが俺の腕に伝わってくる。
大した重量も無いが、それでいて呆気なく殺す事も出来ない。
ヒラヒラと宙を舞う木の葉みたいな紙に、指をシュッと切られたみたいな、意外な抵抗だった。
この依頼、こんなに長丁場になるとは……覚えてろよ、あのジジイめ。
「そっちが確認しろって云ってきたのに、真面目に受ける気無いなら診ない」
既に俺の手首を放して、一歩下がっている少年。
すっかり警戒させてしまった事を「悪かった」と軽く謝罪する。
そんな一言で戻ってくるあたり、詰めが甘いというか……
まあ、これ以上反省を表すなんて出来ないから、こちらとしては助かった。
俺はホールドアップの姿勢を維持して、されるがまま。
少年はといえば、コート裾や腰回りの装備をめくったりズラしたり。
「あっ」
と、ここで何かを発見したらしい。
俺の背面に目が無いのが残念だ、どういう表情で発見したのか拝んでやりたかったのに。
「針が」
「針?」
「刺さったままだ……腰の、此処」
素肌をクッと指で押されると、確かにズキズキとそれらしい痛みが走った。
神経に障る、なんともいえない不快感。
「そういうモンは、暫くすりゃ勝手に抜けるんだがな」
「ベルトが塞いでたんじゃないのか」
「ああ成程、そりゃ納得だ」
バックルを外し、ベルトを床に放った。
まとわりついていた砂粒達は、ボルテクス砂漠のものだろう。
ターミナルの暗い床で、少ない光源を反射し僅か煌めいている。
その光源に向かって、再度の要求だ。
「おい、俺の腹にパンチをくれよ」
「そんな趣味ない」
「いいからいいから、ストレス発散のサンドバッグとでも思えって」
「……俺、そんなにストレス溜めてる様に見える?」
弱く不安気な声音と裏腹に、そのツラは酷く不機嫌そうで。
そのギャップに思わずハッハと声を上げて笑っちまった、途端、重い一撃が腹に入った。
「おっふ」
咽た反動で、肉が針を吐き出した。
床に華奢な音で転がったソレを、少年が屈んで確認する。
「オイオイお前、俺の心配より先にソッチか」
「これ九十九針の針じゃないか」
「へえ、あの鳥悪魔の」
「ダンテ……いつから腰が痛かったんだ」
「ボルテクス来て割とすぐかな、お前と初めてやりあった時には痛かった様な?」
「もしかしてマントラ本営で刺さったのが、ずっと今まで……」
呆れた、と靴先で針を蹴飛ばす少年。
こうして見ると結構デカい針で、我ながら驚きだ。
そんなに装備を外す機会も無かったか、そういや意識した事も無かったな。
「これからは回復の泉入る時に、全部装備脱いだ方が良いんじゃない」
針よりも刺々しい少年の声に、改めてベルトを締めつつ揚々と返す。
「忘れそうだから、その都度お前が “Hold up!” ってけしかけてくれよ」
「一人で勝手に脱いで下さい」
「んん、日本風に云うと “バンザイ!” か?」
俺を完全にスルーした少年は、転輪鼓に掌を添えて移動の準備ときた。
その腰にグイグイと抱き着いて「痛いのはマジだったろ、頼りはお前だけだったんだ、拗ねんなって」とうそぶけば。
「針小棒大って言葉知ってる?」
とだけ返され、当然意味は知らないながらも、何やら鋭い針がハートを貫通していった気がする。
これからあまり心配してくれない予感だ、俺のカンは当たるんだ。
-了-
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