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湿血帯不快指数

湿血帯のお知らせ、管理人の雑記など、じめじめ

「VORTEX LUMINOX ~ボルテクス・ルミノクス~」のプロット
こっちも発掘したので掲載します。
漫画はこちら(C氏のpixiv)






  【プラネタリウム(サンシャイン内)】

一面に広がる夜の海原
水面に満月が映り込む

頭上に広がる星空に切り替わり、アナウンスが続く。
横から音声よりワンテンポ早く「ふたご座」「すばる」と声が割り込んでくる。
「うるさい」
隣に足組みで着席し、星を当て続けるライドウにぴしゃりと云い放つ人修羅。
ライドウはニタニタ哂ったまま、言葉を続ける。
「ねえ、何故高いビルヂングなのに、わざわざ内部にこのような施設を置くのだい」
「空が濁ってるから」
「大気の淀み? 曇り続き? 周囲のネオン?」
「全部だ全部! っていうか何であんたが此処に居るんだよ! 他の階ウロウロしてたじゃないか」
プラネタリウムの放映が終了し、スタッフロールは見ずにホールを出る人修羅とライドウ。
「君が“早くしろ”と急かしに来ないので様子を見に来たら、何やら面白そうなキネマを観ていたのでね」
「どうせ素のままの空で見れたんだろ、星くらい」
「さてどうだろうね。 僕の頃とて見え易い場所と、そうでない場所の差は有ったさ」
いくつかの部屋や通路を通過しながら会話する。
服の脱げたマネキン、積みっ放しの段ボール。
(壊れた傘の山が見える)
マントラ本営前を通過。
「向かうはゾウシガヤ霊園だろう?」
「ああ……」
「人間の肉体を得たマネカタ……果たして存在するのだろうかね……フフ」
「……なあ、あんた、天体詳しいのか?」
「君が知らなさ過ぎるだけさ。 ま、この世界では役に立たぬ、古びた伝承程度の扱いになるだろうよ」
イケブクロを抜け、開けた景色。
白けた砂塵を2名と1匹で歩いて往く。


 ボルテクス界。
 彩度の低い荒野の中、時折現れる街が東京の名残を残している。
 青々とした緑も無く、排気の濁った空気も無く。
 見上げれば眩いカグツチの向こうに、乱立する建造物が見える。
 雲ひとつない空には、雨も星も見える事は無い。



  【第4カルパ】


「はあ、はぁ……」
殴り殺されたマネカタの腕が痙攣しており、得物(折れた傘)が人修羅の爪先をつついている。
それを軽く蹴り除けると、今度は横から外套が脚をかすめる。
「何故そんなに息を乱しているの」
ライドウを無視して先に進むが、しつこく訊ねてくる。
「君はマネカタより弱かった? そんな筈は無いと思うがね」「人型を殴るのがそんなに嫌かい」
図星もあり、睨みつつ振り返る。
「気分が良い訳無いだろ」
「その割には、僕に叩き込んだ拳には容赦を感じなかったけど?」
「あんたが散々煽ってきたからだ」
人修羅に銃口を向けるライドウ。
それを嘲弄しつつ、軽く構えようとする人修羅。
「ほらみろ、またそうやって煽る――」
放たれた弾が素通りし、軽く悲鳴がした。
振り返った人修羅、マネカタが倒れている。
「煽ったかい?」
「……」(とても気まずそう、視線を逸らす)
「まただ」
「そ、そうだな、どうしてこうマネカタばっかり……イケブクロでも無いのに」(話題が逸れてくれてやや安堵)
「また傘を持っている」
「は? 傘?」

ライドウの台詞に改めてマネカタを見れば、傘を携えている。
(このマネカタは所持しているだけで、武器にしていたのは例のバールの様な凶器)
ゴウトが軽く咥えて引っ張る、何の変哲も無いビニール傘。

『ふむ……視界は良さそうだが、なんとも脆そうな傘だ』
「ボルテクスは雨も降らないのに、しかも此処はアマラ深界だ」
呟いた人修羅の頭上を通過する悪魔数体(第4カルパの敵ならなんでも良い)
気配にハッとして見上げる人修羅。
ゴウトは逆毛を立て飛び退き、ライドウは既に召喚を済ませ鯉口を切っている。
『知らないのかー?とっておきのスポット』
『雨ニ濡レテ、満天ノ星モ見ラレル、トッテオキ!』
悪魔の言葉に訝しげにしつつも、少し内容が気になる人修羅。
しかしプライドが阻みだんまり。
察するライドウが、横から代わりに訊いてやる。
「マネカタはそれを目当てに、此処へ流れ着くのかい」
『そうそう、だから傘は御持参下さいってね』
「其処はマネカタでなくとも行ける?」
『マネカタ・人間・半端者も勿論大歓迎~』
「へえ、愉しそうだね」
『むっちゃタノシイ、キラキラするよ』
「僕等も雨に濡れ、星を眺めてキラキラしたいものだねえ」
簡単に話に乗るライドウに、人修羅が「おい」と口を出す。
が、仲魔を従えたまま悪魔連中を追うライドウ。
仕方ないといった風に追従する人修羅だが、脳裏では
(本当の雨?)(星だってそうだ…マトモな世界だった頃の空が無ければ…)

行き止まりの様に見える所に到着すると、悪魔2体が観音開きの様に壁を開く。
穴の中は暗闇で見えず、感じる気配はワープホールと近い。
入口前で人修羅は警戒しており、まず入ろうとしない。
「此処に入れって? どう考えても怪しい」
『イヤイヤそう云わず』
「悪魔の云う事は信用出来ません」
『イヤイヤ大丈夫だって、マネカタもちゃんと着地出来てるから』
「妙な所に繋がってるんじゃないですか、何が先にあるか説明して下さいよ」
『イヤイヤ……イヤーッ!』
ライドウに蹴り落とされる悪魔。
軽く見下ろして様子を窺うライドウ。
「衝突音も悲鳴も無い。 相当浅いか、余程深いかのどちらかだ」
ドン引きする人修羅とゴウト、ライドウから離れる悪魔達。
「さて、露払いしてもらった事だし、降りてみようか?」
「はぁ?本気か」
呆れる人修羅、ゴウトも同じく。
『我は如何すれば良い。ワープホールは距離感が掴めぬ為、正直苦手だ』
「僕が抱きかかえて降りて差し上げましょうか?」
『我にとっての虎子が居る様子も無い、虎穴にはお前達だけで跳び込め』
溜息のゴウトの「お前達」という部分に、人修羅がやや慌てる。
ライドウは不敵に微笑みながら、ツチグモを召喚する。(連れていた仲魔がツチグモなら改めて描写する必要は無い)
腰ベルトにツチグモの糸を括り、周囲の悪魔に忠告する。
「僕の仲魔に危害を加えたならば、すぐに手繰り戻って君達を仕留める」
ツチグモとゴウトだけならともかく、ライドウを見てたじろぐ悪魔達。
微妙にスルーされている人修羅、色々な意味で不満。
「おい、俺は行かないからな。あんたが勝手に決めた事だし…本当に雨や星が見れたのかだけ確認してきてくれたらそれで……」
「君の時代とは云わずとも、人間の世に繋がっていたらどうする?」
「どうって……」
「君は行けるのかい?その姿で?」
人修羅の身体を見て哂うライドウに、軽く牽制する人修羅。
それをふっと躱すライドウは、帽子のつばを持ちそのまま穴に落ちて行く。

『おい、あのサマナーって人間なんだよな』
『だったらキラキラする筈だけど、大丈夫かぁ?』
『フツーに帰ってきそうだから、オレ達ももう解散しようぜー…』

ヒソヒソ集って会話している悪魔達を尻目に、人修羅が穴を見つめている。
『糸は視えているか』
ゴウトに訊かれ、ツチグモから吐かれる糸を眼で追う人修羅。
「はい」
『それを伝えば……少なくとも孤立はしないだろう』
「二人分の重みで切れるとか、無いですよね」
人修羅の危惧を笑うツチグモ、そんな事はまず無いと返す。


糸を伝い、暗闇を降りて行く人修羅。
かなり静かな為、ゾウシガヤ霊園で得た後生の土鈴の音が幽かに響く。
(どこまで続くんだ…)
真っ暗な為、段々と距離感や上下の感覚が失せてゆく。
リーーン リーーーン
提げている訳でも無いのに、嫌に響く鈴。
ぼんやりと湿った薫りを感じる。
過去の記憶が甦る。
 てるてるぼうずも無意味に窓辺で吊るされたまま、雨で遠足がお流れになった事。
 夕立ちに洗濯物を取り込む際、頬に雨粒を受けた事。
(良い思い出が雨に有る訳でも無いのに)
(人間の世界でなければ受ける事も無かった苦労や感覚、意識すれば胸が締め付けられる)
さあさあと雨の音が響き、その中に茫然と立つ己を知覚する人修羅。
「人修羅……人修羅……」
遠くから聴こえる声、だが微動だしないでいる。
「功刀君」
名指しの後、雨の中に雷鳴が轟く(銃声)

はっと瞼を上げる、地面に横たわっていた人修羅。
軽く屈んでいるライドウと眼が合う。
鼓膜の傍で発砲されたのか、頭の傍に銃がちらつく。
「眠りに落ちて糸を放したね? 情けない奴」
「……ライドウ」
「こういう時に限ってイヨマンテを呑んでいなかったのかい。 ほら、早く起きてくれ給え」
ミシャグジを召喚し、発光を使わせたまま戦闘に戻るライドウ。
ヤタガラスをばっさりと斬り捨て、スパルナに向かっている。
続いて現れるナーガと対峙する人修羅、まだ微妙に足取りがおぼつかないものの
ナーガが火炎弱点な事が功を奏して、マグマ・アクシス一撃で決める。
その影から現れたガキを殴り飛ばし、ぐちゃりとひしゃげた体躯がぶつかった先を見る。
流れで周囲を見渡す、しとしと何か滴っている。
「……なんなんだ、此処……」(揮った拳の汚れを裾で軽く拭いつつ)
キウンを倒したばかりのライドウに近付いていく人修羅。
発光するミシャグジと距離が近くなり、やや明るくなる。
振り返ったライドウの頬が薄っすら赤い。
「おい、このなんとなく降ってるのが雨だっていうのか――」
云いつつ上を見上げる人修羅。
上空にギラギラと無数の星(アマラ蓮根穴の眼達と同じ様な光景)
と、ライドウの刀の鞘が脚を打ってくる。
「何すんだよ!」
「あまり上を見ない方が良いよ、酸だから」
「……はぁ!?酸って」
ライドウは襟を立てている、外套の隙間から手元を見れば指が血に濡れている。
ミシャグジは呑気に
『こういう時ばかりは、皮被りが良いのう』
等と笑っているので、人修羅の苛立ちと焦りを助長させる。
「此処に落としたマネカタをじわじわと溶かしていたのかね。 恐怖心はマガツヒを多く生産させるから」
「悠長に構えてる場合か!」
ライドウの腰から伸びる糸を掴み、揺らす人修羅。
だがそれを制すライドウ。
「そこそこの距離が有った、横から抜けた方が早い」
「横って何だよ!」
「此処は恐らく第3カルパだからね……そらミシャグジ、検証し給え」
命令通り現場検証するミシャグジ、すると光で炙り出された壁が視える。
靴先でその壁を蹴りつつ、人修羅に顎で示すライドウ。
溜息の後、渾身の力を籠めて壁を殴りつける人修羅。

砕けた壁を潜り抜けると、第3カルパらしき部屋に出る。
『いやーヒリヒリするぞい、使い過ぎっぽい色になってしまったわ――』
みなまで喋りきれず、管に戻されるミシャグジ。
色々な意味でうんざり顔の人修羅に、襟を戻しつつ語るライドウ。
「確かに、雨と星だ、ククッ」(血まみれになりつつも愉しそう)
「何が雨だ、結局は罠じゃないかよ!」
「溶解液を出す悪魔は結構居るからねえ……さしずめ唾液の雨といったところか」
「だ、唾液……うぇっ」
「降りてくる際、精神への干渉を喰らったろう? マネカタが標的だとすれば、感情の落差が激しい程マガツヒが搾れるからね」
「幸せな気分にさせるって? そんなに良い事思い浮かべられなかったけど」
「マネカタは泥人形だが、人間の感情で出来ていると聞いたろう。 この世においては、人間時代の感傷さえ甘く染みるのだろうさ」
(部屋の隅にぼんやりと揺らぐ穴がある、床に開いている)
「また穴かよ、これ以上落ちたら上で待たせてるゴウトさん達は困るんじゃないのか」
「出た先からまた第4カルパに行けば良いだけさ、僕はこの先が何処に通じているかの方が気になるね」
「迷惑な奴……」
しおり糸を切ったライドウ、人修羅はぼやきつつ、2人で同時に跳び込む。


落ちた先はマントラ本営内、壊れた傘山の上に着地する。
山の端に座り込んでいた悪魔が、ビクッと此方を見てくる。
ライドウの蹴り落とした悪魔だ。
『ひ、ひぃっ』
すたこらと逃げ去る背を、人修羅もライドウも追わない。
「ターミナル経由しなくてもアマラ深界に行ける程、此処は穴が多いって事か?」
「マネカタの意志がそうさせたのか、それを餌にする悪魔がそうさせたのかは謎だがね」
ビニールが溶けている傘を見て、少し悪寒の走る人修羅。
溶けきらない物を投棄する穴だったらしく、それがマントラ本営内に繋がっていたのだ。
「アマラ深界がどの様な処かも知らず、雨に打たれたい一心で彼等は向かったのかな?」
「どうでも良いけど、半狂乱でこっちの話も聞かずに襲ってくる奴はマネカタでも同情出来ないからな」
「とりあえず泉で回復したいね、肌がぬるついて仕方が無いよ」
(さくっと泉に向かう)

「……あんたって、いつも余裕だな……普通酸の雨なんて気付いたら、もっと慌てるだろ。 どういう確証が有って第3カルパとか云ってたんだ」
別の水流で一張羅を洗うライドウが、云われた通りの余裕の笑みを返す。
「だってしりとり順だったろう」
「しりとり?」
「ヤタガラス→スパルナ→ナーガ→ガキ」
「……キウン……えっ、なんだそれ」
「第3カルパの一部領域では、そういう風に連続出現するではないか。 君、気付いていなかったのかい?」
泉に浸かりつつ、ぽかんとする人修羅。
それを余所に、ライドウは洗った服を掲げて人修羅に「ほら、早く乾燥してくれ給え」と要求している。(帽子と褌一丁で)
軽いファイアブレスで乾燥させる人修羅に、ライドウが立て続けに要求する。
「雨も汚かったが、星も大した輝きでは無かったね。“上”で観直して行かないかい」
「……」
(無言ながら、視線で返事する人修羅)


プラネタリウムの星空が広がる、今度は横から解説しないライドウ。
すると、人修羅の方から話しかける。
「ライドウ……あんたは、雨の匂いを感じなかったのか」
「僕が精神攻撃を受け付けない事、知っているだろう」
「何も視なかったのか? 思い出すとかは……」
「ライドウとしての記憶しか擁していないものでね」
「葛葉ライドウじゃなくなった時、その記憶は無意味になるのか?」
暫し沈黙のライドウ、プラネタリウムだけが冬の星座を次々に回す。
「平和な世界では役に立たぬ《ライドウ》は、古びた伝承程度の扱いになる……とでも云いたいのかい?」
「そ、そこまで云ってないだろ……少なくとも、その性格の悪さはライドウの伝統って訳じゃないんだろ?」
「君はそんなにも、雨や星が恋しかったの」
(雨や星とは云うが、つまりは人間世界の空気の事)
「ずっと明るいままの外が不気味だ。 選んだ人間以外を焼き殺すカグツチから……あたたかみなんて感じる訳無い」
「悪魔が人間の跡地に住まう異質感、荒廃しつつも整然と立ち並ぶ建造物……こんなにも面白い世界なのに?」
「俺はボルテクス界を受け入れたくない」
上映が終わり、スタッフロールが流れている。
暗さの増した場内に、人修羅の斑紋の光が目立つ。
「……まあ、君の創る世界のほどほどな酸性雨を浴び、新たな夜を拝むのも一興かな」
「へえ、珍しい。また嫌味のひとつでも吐くかと思ったのに」

人修羅の金の双眸が煌々と輝く(表情は押し殺しているが、眼に歓びが滲み緊張感が抜け落ちる)
それを横目にライドウが哂う。
「可哀想に、君は見れぬだろうが、僕は実の所、星なぞしょっちゅう見ているよ」
「は?いつ見てるんだよ、なんで俺だけ見れないんだ」
「さあ?」
(ロールも終わり、画面にENDの字)

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