忍者ブログ

湿血帯不快指数

湿血帯のお知らせ、管理人の雑記など、じめじめ

ダンテ主新作の2
前回「ダンテ主新作(プロトタイプ)」のつづき……というか、推敲したらここで一旦切るかも。
手紙の内容を、この回で出すか次回で出すか……うーん……
「先が気になる感」は、重視したい。ダンテ主らしいシーンも、今回は少ない分次回は入れたい。
過去の人修羅とダンテの話も、もうちょっと書きたいのが有ります。

今日帰宅したら、更新出来るかな?
拍手のお返事なども、更新後に……遅くなり申し訳ないです(;^ω^)






 やがて、カチリと音がした。が、事務所の明度は変化無し――
「ヤシロ! 何か居るぞ!」 
 俺は咄嗟に伏せ、手摺格子の狭間に標的を探した。
 今のはスイッチ音じゃあない、ヤシロとは真逆から響いたんだ。
 薄闇の中、睨み合う。一瞬視線を逃がした先、ヤシロはワークデスクの影に身を潜めていた。
「……おい、どちら様か知らねえけど、此処で派手にやり合うつもりは無いぜ。あんたも許可取ったワケじゃ無いだろ? 此処の家主にさ」
 挑発してみたが、無反応ときた。
 これで実の所、気のせいだったりすると流石に恥ずかしい。
 ワザと愛銃のシリンダーをシャッフルして、侵入者を威嚇してやる。
 音だけに留めてやるのは、せめてもの情けだ。折角工事が済んだってのに、また穴だらけにしちゃ可哀相だしな。
「貴方達も、許可を貰って入ったとは思えないけれど?」
 女の声が、俺のブルーローズを遮る。俺も手を止め、記憶を探った。
 どこかで聴いた声音……多分、あのビリヤード台の影に実を潜めている。
「久しぶりね、ネロ」
 ちゃっかり名指しとは、成程、撃つか撃たまいかの判断をさせているな。
 お前の知人か、もしくは撃ち損じたくない宿敵なのだ、と暗に示している。
 せっかちな俺に対しちゃ、寧ろ有難いご配慮だ。
「久しぶりといえば、そっちの半魔君も……もう隠れなくて良いわよ。どうせ私のハンドガンじゃ怯まないでしょうし、カリーナ=アンをぶっ放すには間合いが狭いもの」
 ぬっと立ち上がる姿は人型にしては歪だ、担いだ巨大な得物のせいで一瞬女性とは判断出来ない。
 グラサンで眼の色までは確認出来なかったが……あのツンツン横に跳ねた黒髪と、背中のデカいバヨネット銃は間違いなくレディだ。
 ダンテの仕事仲間で借金相手、俺の所にデビルメイクライの看板を届けてくれた人……だと聞いている。
 人づてに「誰が運んで来たか」を聞いただけなので、直接受け取ってはいない。
「ビリヤードをする様な恰好には見えないな、武装して何の用事だ」
「あら、この事務所に丸腰で来て良いのは依頼人だけでしょ。コッチ側の面子は、ポケットに銃のひとつくらい差して来ないとね」
「オッサンに恨みの有る悪魔が、しょっちゅう訪問してくるとは確かに聞いてる」
「そうね、トリッシュだとか……貴方達だって、二人で悪魔一人分にはなるでしょうし」
 いつかは看板の礼を直接云わないと、なんて思っていたが……そんな空気じゃないな。
 レディはダンテとは友人かもしれないが、俺とはあくまでも知人レベルだ。友人の友人程度だろう。
 それにさっきから気になるのは、ヤシロを《半魔》と断言した事。
 デビルハンターの全てが、悪魔の血を許すとは限らない……それは俺も重々承知の上だし、警戒している。
「ねえ、ダンテを見なかった?」
「そりゃこっちの台詞だ。すっからかんの事務所にあんたが居た訳で……とうとう此処も差し押さえられたのか、って思った」
「残念ね、そうしてやりたいのは山々だけど、私もちょっと頼まれ事してんのよ」
 白いジャケットのポケットから、するりと紙切れを取り出したレディ。
 ヒラヒラとインクでも乾かすかのようにソレを煽ぐので、俺は下階まで降りずに悪魔の右手を伸ばした。
 薄暗い空気を割いて、煌々とした俺の右手が奪い取る。
 戻って来た手先が掴むのは、封筒だった。宛先は見知らぬ住所、レディと名指しはされている。
 差出人の名義は……
「ダンテから?」
「私が世話になってる工房に届いてたのよ、電話にすりゃ良いのに……まあ、根掘り葉掘り訊かれるのが嫌だったんでしょうね」
「中を見ても?」
「貴方が開けなくても、ソッチの子が今度は奪い取るでしょ、どうぞお好きに」
 気付けば俺のすぐ背後に、ヤシロが居た。大窓から射す最後の陽が、燃える様に奴の肌を染め上げている。
 爛々とした眼は、俺を静かに急かした。
「へいへい、拝見しますよ……って、お前読めるのか?」
 既に一度開けられた封を開き、折り畳まれた用箋を引っ張り出す。
 ダンテの字は初めて見る気もするが、これといってクセの有る書体でも無かった。
 チラ、と傍に視線をくれてやると、ヤシロが文面を食い入る様に見つめている。
 眉根が寄っている……が、多分内容に困惑しているワケじゃないな。
「読めないんだろ、ヤシロ」
 落胆する横顔に、残念ながらフォローを入れてやれない。
 俺も翻訳してやる能力が無いし、口頭やジェスチャーでどれだけ理解させられるのか、自信は無かった。
 ただでさえ話がややこしいってのに、コイツの母国語に直せだなんて無茶だ。
「把握した、とりあえずコレはあんたに返すよ」
 封筒に用箋を仕舞い、再び伸ばしたスナッチでソレを届ける。
 すると、封筒を放す俺の右手を、唐突に掴むレディ。思わぬ反動に、俺の身体はよろけた。
 手摺を支えに、軽く身を乗り出す。
「いきなりの握手とか、悪手なんだよ。引きずり降ろされるのかと思ったぜ」
「おまけが有るから、そこのボウヤに見せてあげて」
 指先に冷たい感触……どうやら別の紙を持たされた。ずいっと引き戻し、ごつごつした指先のままペラリと翻す。
 驚いた事に、俺には全然読めない文面。成程、ヤシロには読めるんだろうな、この文字。
 俺はソレをヤシロに突きつける様に預け、レディに向き直った。
「何処の誰が翻訳したのさ」
「内緒」
「ふーん、ま、俺には関係無ェしな……」
 なんて云いつつも、キナ臭さに警戒しまくっている俺。
 この女、悪魔に人一倍キツいってのは聞いているが……《友好関係に無い半魔》に対してはどうなんだろうな。
 ダンテとは腐れ縁らしいが、俺達との縁は希薄だ。
 この事務所に潜んでた本当の理由が、未だ知れないし……
 何より、誘導されている気がして気分が悪い。
「で、あんたもマレット島に行くつもりか?」
「そうね、この事務所売っ払ったって、借金の半分にもならないもの。ちゃんと稼いで返してもらわなきゃ」
「魔界まで取り立てに行くってか、はは、怖ぇの」
 レディは流す様に答えたが……借金やらダンテの無事やら、それ以外の目的が有る様な気がしてならない。
 ヤシロを渦中に送り込むようなアイテムまで用意しやがって、誰にあれを渡されたんだ?
「しょうがねえな……俺もオッサンには一言云ってやりたいから、マレット島観光に付き合うとするよ」
「あらそう? ま、大人数で捜した方がダンテも早く見つかるでしょうし、良いんじゃない? 私も初めて行く処だしね」

 ダンテの行先がヤシロにも知れた限り、こいつは止めても向かうんだろう。
 言葉も通じない国でどうやって? いや、こいつなら何とかしてしまいそうな気がする
 それは信用じゃなく、漠然とした不安だ。半魔が欲望の為に路を踏み外す事例を、俺は知っている。
 ダンテははぐらかしているけど、薄々勘付いている。俺の親父という人こそが……まさに……

「おいヤシロ、さっさと行ってオッサンにパンチの一発でもくれてやるか」
 たん、と背中を叩いてやった。
 愛想の無い俺からの妙なスキンシップに、お返しの如く微妙な目でもするかと思ったが……ヤシロは凍り付いたままで。
 タトゥーの縁を滴る光が、ざわついて明滅している。
「……落ち着けよ、船着き場までは光らない方が良いぜ」
 ツノの生えた項を軽く揉んで、そのままフードを頭に被せてやった。
 夢から醒めた様に、ひとつふたつ瞬きをしたヤシロは、完全に金色を閉じた。
 フードの尖りがゆるゆるとしぼんで、タトゥーの光も徐々に鎮まっていく。
 擬態を終えたのか、とうとう事務所の薄闇に溶け込んだ。
 

拍手[0回]

PR

コメント

コメントを書く