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湿血帯不快指数

湿血帯のお知らせ、管理人の雑記など、じめじめ

幻肢の囁き(サンプル)
途中までのサンプル載せますが、出発前に書いた作品の為雑です。
コピー本をご購入される方、たかが100円されど100円、一応検討材料にしてください。
以下「サンプルを読む」から↓



幻肢の囁き



 ターミナルの謎の移動でぎゅおーんってなって、マガツヒ搾り取られた事思い出しちゃった。なんとなく気分悪くていつも以上にフラフラのボクに「まさか酔ったのか?」って訊いてくるんだけど、酔うってお酒の効果じゃなかったっけ?
 まあそんな事はどうでもよくなった、久々の棲み処が見えてきたから。ギンザの地下道の方が、やっぱり湿っぽいね、ボクの秘蔵っこ達にカビでも生えてなきゃいいけど。

「懐かしの我が家、ってカンジだなあ」

 ボクのセリフにおかしな所でもあったのか、隣のキミは無言のまま。
 密度だけは似たようなものなんだけど、アサクサのお店は相変わらずだーれも来なくて、唯一の常連がこの人修羅。そういえば出逢った頃は人修羅なんて呼んでなくて、キミって適当に呼びかけてて、実際それで済んでた。風のウワサに《人修羅》という言葉が出るようになって、ソイツはどうやら火を吹くわ暗闇でピカピカ光るわと、情報がメチャメチャだったので、ボクは誰の事だかサッパリ分かってなかった。他の仲間や悪魔が、カレの事をそう呼んでいて初めて合点がいったってワケ。
「あまり長くかかるなら置いていく」
 冷たく云い放つ人修羅は、収集品の影でピカピカ光っていた。
「まあまあ、ちょっと待ってよ。イイモノ出てきたらあげるからね、ひとつくらいなら」
 折角連れてきてやったのにそれっぽっちか、とでも云いたい目でボクを睨んだ。まあでも大丈夫、この半ニンゲン半アクマ、実のところ怖くない。捕囚所での脱出にも協力的だったし、ついでであれば助けてくれる程度にヤサシイ。
「ボクが荷物をまとめるまで、ヒマ潰しでもしてきてよ」
「此処に娯楽なんか無い」
「そうだった、だからこうやってモノ集めてたんだっけ」
 ハハハ、って震えたら溜息された。でも溜息で良かったよ、一瞬火でも吐かれたかと思って伸び上がっちゃった。確かにピカピカ光るし火も吹いてるな、ウワサって誇張されると思ってたよ。
「済んだら声掛けてくれよ、その辺に居る……」
 大人しく外に出ていった人修羅を見送って、ボクはコレクションの山を崩し始めた。きっと荷物運びも手伝ってくれるだろうし、沢山まとめちゃっていいよね。
 今回持ってきたのはコレ、乾電池。アサクサで大量に手に入ったから、此処の色んなモノにツッコんで動作確認して、動かないのを持ち出して、動くのは残していくんだ。だって、折角生きてるのを売っちゃったら勿体ないでしょ。
 大抵裏側に乾電池を入れる箇所があるから、とにかく色々引っ繰り返して調べた。プロペラが有ればそれが回るし、電球部分があればソコが光るし、モニターがあれば何か浮かび上がってきたりする。何に使っていたのかイマイチ分からないけど、動いたり光ったりするだけで面白いから、意味は二の次でいいかな。
 とか考えながら仕分けしてたら、早速よく分からないモノがギュイギュイ音立てて動き出した。水色の盤面がぐるぐる回転して、いくつかの窪みには押し上がったり引っ込んだりする可動部が見える。それ以上何したら良いか分からなくて、スイッチを切った。本当に意味不明……ゴチャっとしてるから音楽ディスクを回す装置じゃなさそうだし。んっ、ちょっと待って、このサイズと丸みは見覚えがあるぞ。アッチの箱に放り込んだままだけど、底面押すと口がパクパク開く魚のオモチャが有ったんだよね、あれの曲線にピッタリ合いそう……ああコレコレ、とりあえず三個持っていくか。コレを盤面の窪みに……おおっ、ばっちりフィットだあ。再びスイッチをONにしたら、魚のオモチャ達がぐるぐる回りながら口をパクパク開け閉めして、上下にうごめいてた。
 きっとコレ、ニンゲンが《釣り》してる時のシチュエーションになるんだね。貼られている側面のシールに魚の絵が描いてあるし。紐付きの小さな棒が陸地にセットされてるから、これを取り外して自分で持って糸を垂らせば……ほうらパックンチョ。
「釣れた!」
 食い付いた魚のオモチャは、糸の先にぶらんぶらんと揺れていた。糸が歯の隙間からスルンと抜けないのは、先っちょに小さなビーズが付いているからだよ。でも待って、それでどうするの? 釣りの真似をする装置って事は判明したけど、これをひたすら繰り返すの?
 本当の釣りって、どうやら獲物を食べていたらしいんだよね、ニンゲンが魚をだよ。マガツヒ沢山入ってたのかな、写真で見た魚の断面は紅くてタップリ詰まってそうだったけど。そういう旨味でもないと、糸垂らしてじっと待つなんて出来ないよ。
 でも、もうこの世界の水辺に鮮魚が居るとは思えないから、この装置はいよいよ真価を発揮する時が来たって事になるのかな。釣りの真似事が出来るんだし、つまりはとっておきって事なのでやっぱり此処に置いていこう。
 魚といえば、捕獲って点では人修羅がイソラを狩る行為は近そうだ。外の水路に自らザブザブ入って、じっとしてるの。前に見かけたんだ、扉の隙間から。「じっとしてるとイソラがシメシメと寄ってきて襲われちゃうよ」って声かけたら「おびき寄せているんだ、放っておいてくれ」って云われちゃったから、よく憶えてる。
 アレはつまり、自分を餌にしてたって事だよね。その時も一部始終を目撃しちゃったけど、ちょっと怖いフンイキだった。突然水を蹴り上げたと思ったら、宙に舞い上がっているイソラ、次の瞬間には獲物めがけて炎を吹きつけている人修羅。きっと脚を噛まれる寸前でかわしたんだ。
 あれだけ強かったら、もっと色々な所に旅に出られるのに。そうしたら拾得物を地域別に集めて、ちょっとした展示施設を作るんだ。おっとその前に地図を作らなきゃだよ、元々のトウキョウとは形が違うみたいだからね。
 ウキウキで魚釣りセットを棚に戻し、まだ手付かずのモノの傍に腰を下ろした、その時。

 ──ゴッ

 扉が音を立てて揺れた、もしかしてのんびりしすぎた? 怒った人修羅が早くしろと合図したのかもしれない、そうだとしたら正直開けたくないんだけど、蹴破られちゃしょうがないからね。
「はいはい、今ガンバってるから……」
 そうっと扉を開けていく、なんだか凄く重い。それになんだかサビのニオイもする、扉が一瞬でサビたとか、まさか。
「あっ、悪魔!」
 ヒイッと声が出て、腰を抜かしちゃった。扉の前に、ひょろっとした悪魔が倒れ込んでいた。倒れ込んだ時ちょうど扉に頭突きする形になったみたい、正面の口からお腹の下まで、パックリ割けている。最初それが傷なのかと思ってエグい~と震え上がっちゃったけど、どうやら元々そういう悪魔みたい。
「死んでるの……?」
 この辺じゃ見ない悪魔だ、そもそも水路の中しか生息してない筈だし……じゃあ、これは何処の悪魔?
「ねえ、ねえっ人修羅」
 そうだ、人修羅は悪魔を引き連れていたっけ。ボクと歩いてる時は、どうも引っ込めていてくれたみたいだけど。
「何処に居るんだよう」
 ぜんぜん声量無いけど、叫んでみた。以前なら方々から「何があったの」とマネカタ達が返事を寄越したんだろうけど、もう静かなものだ。水がごうごうと飛沫を上げる音だけが、空気に流れを作ってた。
 何だかイヤな感じがして、ボクは少しだけ歩いてみた。倒れている悪魔の横は、出来るだけ音を立てずに横切って……ハシゴを経由、水辺に降りられる位置まで来た。さっきの悪魔、ずいぶん濡れていたから、もしかしたら柵を乗り越えて上がってきたのかもしれない。
「ねえ人修羅ってば、怒っちゃった? もういいよ、また別の機会に連れてきてよ」
 伺いながらも次の約束を取り付けてみた、更に怒って出てくるかもしれないでしょ。
 でもやっぱりシンとしたまま、ボク疲れちゃって座り込んだよ。水が近くなった分、そのニオイがフードの内側に這い上がってきた。やっぱりサビの様な気がする……
「あっ」
 揺れる水面を眺めていたら、ふと目に留まった。ぷかぷかと、小さな枝みたいな物が浮かんでいる。水と照明がユラユラさせて光らせていると思ったら、どうやらひとりでに光っているらしい、ピカピカと。
 立ち上がって、柵に前のめりで寄りかかって、もっと目をこらした。小枝なんかじゃない、人修羅の指だ。ぷかぷかピカピカ、流される先をボクは追った。きっとあのままだと、下流の格子に引っ掛かるだろう。


    ---サンプルここまで---

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