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「蛍狩り」の後日談SS「蟒蛇に管を巻かれる」
過去に拍手御礼として掲載していた〝「蛍狩り」の後日談〟ですが、サイトの何処にも載せていない気がするので一時的に此処に載せます、2012年頃執筆。
悪魔衆の中でイッキするライドウが、ヨシツネに管をまく話です。(以下「話を読む」から)


蟒蛇に管を巻かれる

『蛍狩り今年も盛況っしたあああ!! おつでぇぇええええーっす!』
 結局今回も仕事一筋だったミズチが、ヤケクソの様に叫んだ。
 周りの悪魔がそれぞれなりの笑顔になり、手やら触手やらを天に翳す。
『いーっきいっき! イッキッキ!はい!』
 手拍子が広がり、悪魔の輪の中央に胡坐したライドウが瓶ごと煽る。出回っている酒の中でもキツい“やみなで”だ。
『『酒は呑め呑め 呑むならばぁ!』』
 ぐいぐいと傾く瓶。
『『ひのもと一の この管をォ!』』
 落ちそうになる学帽を押さえて、瓶はほぼ垂直。なんつう速さだよ、化けモンか。
『『呑み取るほどに呑むならばぁ!!』』
『『『これぞ帝都の葛葉ライドォオオオ!!!!』』』
 一瓶呑み干した訳だ、普通の人間なら死んでるんじゃあないのかい?
 盛り上がる悪魔衆に、ニタリと微笑んで唇を舐めずる旦那が、そこでひとつ発する。
「ねえ、ヨシツネ、お前はそれ以上呑まぬのかい?」
 まさかの御指名に、ぼうっとしていた俺はビクンと甲冑を鳴らした。
 まっさか、数刻前の色々を思い出して肴にしてたとか、云えねぇ、間違っても云えねぇよ。
 まっさかなあ!
『俺ぁもう良いぜ、旦那も意地が悪いなぁ! 俺ぁ確かに酒が好きだが酔いは早いって知ってるっしょお』
「そうだな、蛍狩りの後、既に酔っていた様子だからねえ」
 一瞬の間。おい、どうして周囲のお前等まで黙る。
『え……ヨシツネさん、あなたお役目そっちのけで啜ってたんですかMAG……』
 ミズチが眼を潤ませる。いや、元々潤ってんだがよ。
『違ぇっての、俺はただ蛍の光に酔っただけで』
『ハイハイーイ! ライドウ! ぼく見たよ! 何か妙な光の蛍と遊んでた!』
 くっそスダマが。思わぬ横槍に、俺の心は串刺しとなる。酒をかっ喰らったばかりのライドウは、少しだけ笑い上戸だ。まあ、穏やかな類の笑顔にゃ程遠いんだが。
「知っているよスダマ……何せ戻ってきたこいつの唇、濡れていたからねえ」
 スダマに微笑んだ後、唇を吊り上げて傍の岩にトントン、と白い爪先を鳴らすライドウ。俺を見ながらのその仕草、来いと云っている。
 渋々立ち上がり、俺はその黒いインネンオーラを発する主人の傍に腰を下ろした。すると、岩を叩いていたその指先が、流れる動作で俺の刀を物打ち半ばまで抜く。長い睫が少し伏せられ、光る刃先を眺めている。
「何か斬ったね……濁っている」
『お見通しかい、へへ……まぁ、そういう事よ』
 叱咤の蹴りでも何でも受けてやるぜ。それ以上に俺は今宵、高揚出来た、悔いはねぇ。
「僕はね……理由があれば、斬っても良いと昔云ったろう? それが人間であろうと、ね」
 かつ、と納められる刀。そのまま抜刀されて、斬られると想像したが、それは無くなった。
「ところで……ねえ、蛍、喰らったのかい?」
『……へへ、あまりに詩的過ぎて、何が云いたいのか解らねぇよライドウの旦那』
「ほんの少量でも、お前ならすぐに酔うのだろうねぇ?」
 す、と差し出される酒瓶、呑めという絶対命令だ。
 人修羅が先に銀楼閣帰ってるから、旦那も露骨。剥き出しの嫉妬心に蛍も焼け焦げるわな。
「呑めない? 僕の酌だよ?」
『ぃ、いっただきまっすよォ旦那ぁ』
 妙に声が裏返る俺がビビッちまってる事、周囲の悪魔も感じてるんだろうな、ああ虚しいというか恥ずかしいというか。今感じてるこの視線が、判官贔屓なのかもしんねぇなこりゃ。
「音もせで 思いに燃ゆる蛍こそ……鳴く虫よりも あわれなりけり」
瓶の口を開けながら、旦那が詠う。いつの誰の歌なんだか。
『なぁ旦那、次もあるのかい』
「何の話だい?」
『翌年も、蛍狩りよぉ』
「此処が朽ちるまでか、僕が朽ちるまでは行われる筈だね」
 酔ったついでに、ぶちまけちまうか。
『人修羅連れてきてくれよ、次も』
 火に油を注いでみるのも、一興だろ? 旦那は火遊び好きって知ってる、俺も嫌いじゃあねえ。
 横目に見れば、口角がさらに上がって、凶悪な美貌で哂うデビルサマナー。
「とりあえずは貸した分、返して貰おうか」
 指先が俺の顎に流れてくる、ああ、どうやって俺が呑んだのかまでお見通しか。
『なあ旦那、お酌は良いがよ、何処にお猪口が有るんで?』
「此処さ」
 ぐい、とまたもや瓶ごと煽った旦那が、濡れた唇を俺に寄せる。
 ああもう、しゃあねえな、絶対コレMAGも流してくるだろ……やみなでの度数と、ライドウのMAGの度数が、俺の身体をぶっ壊しにかかってくる筈。
『へいへい、呑むよ呑みますよぉ!』
 俺の顎を指先で掴んでくる旦那は、MAGを返して欲しいんじゃあない、だろ?
 きっとこの蛍狩り、帝都も葛葉も絡んでなけりゃあんた……人修羅と普通に見たかったんじゃあないのかい?
 俺だってなあ、蛍拝んで郷愁に浸った後は、寂しくもなるってもんよ。酒の所為か人修羅のMAGの所為か、思った事がするりと胎の奥から出て抜ける。
『あー浴衣姿ってのぁ、意外と細っこけりゃ男でも可愛いもんだぁなぁ』
「……」
『人修羅って呼ぶのも妙っつか……可笑しかったな、ずっと擬態してんだぜありゃ』
 少し眼元が引き攣る旦那。煽った酒を含んだまま。きっと煽られて苛ついたんだろうが……
 その頬がまるで怒って膨れた様に見えて、顔が眼の前にあるってのに思わず噴出した。俺よ、このままいっそ爆ぜろ。
『おーそうさな……“矢代”って呼んでやったら喜んでくれたと思うかい、なぁ旦那よお』
 ああ完全に怒らせた、もう駄目だなヨシツネ様。
『『酒は呑め呑め 呑むならばぁ!』』
 噛み付かれる唇、瑞々しさはキッツい酒の潤いで。
『『ひのもと一の この旗をォ!』』
 人修羅のとは違う、こりゃ悪酔いする類のもの。舌まで入ってきやがる、怖ぇ。
『『呑み取るほどに呑むならばぁ!!』』
 直でこんなん注がれるたぁ、人修羅も既にぶっ壊れてるんじゃあないのか。
 眼の前で、蛍が飛び交う。脳内っつうか烏帽子ん中がきっと融けちまってんだなこりゃあ……
『『『これぞ白旗の源義経ぇええええええ!!!!』』』
 先刻からうるせえよお前等!


-了-

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